アルバイト
とある平日の夜。
風呂上がりの幹夫が夜のニュース番組を観ていると、いつになく真顔の菜緒が相談がある、と言ってきた。
フムフム、何だ、珍しい、と菜緒の方を向き聞く姿勢をとる幹夫。
『菜緒、高校生になったらバイトしたいんだけど』
予想外の展開。とりあえず、理由を聞く。
『なんで、アルバイトしたいの?』
『自分で使えるお金がもっと欲しいから。例えば、ディズニー行くとか、趣味にお金を使いたい』
なんともストレートな回答。お金が欲しい、って…ちゃんと人並みに毎月のお小遣い渡してますけど。ちなみに、菜緒はこの春から高校生。中高一貫校のため、受験はしてない。
『ふーん。で、何するの?毎月いくらぐらい稼ぐつもり?その金額を稼ぐために、どれくらいの頻度でバイトするの?』
『何をするかは決めてない。っていうか、そもそも校則でバイトが認められているかどうかも分からない』
え、そうなの…大きく出た割には、大雑把だな。ん?待てよ。もしかして、これは、賃上げ交渉、もといお小遣いUPの要求か?経団連に対する岸田総理の賃金UP要請に乗っかって、我が家に春闘を持ち込む気か。直前まで見ていたニュースの話題が頭をかすめる。
『一応、聞くけど、バイトしたい→親反対→じゃあ、お小遣い上げて、という展開を狙ってる?』
『いや、そんなことない。お金がないと、何をするにも、ギャーギャー言うじゃん。自分で稼いだお金なら、文句言われないでしょ』
ほぉう、一応、世の中っつうものがどういうものか、よく分かってるじゃない。そう、その通り。何か欲しけりゃ、また、どこかに遊びに行きたけりゃ、お金がないと始まらないわけよ。そこのところを理解していることは、褒めてあげよう。
しかし!学生は学業が本分。すんなりと認めるわけにはいかない。だけど、頭ごなしにNGという話でもない。
『仮に、校則がOKだったとしよう。その上で、条件が2つある。一つ目は、一定水準の成績の確保。これが絶対条件。二つ目は、バイトの内容は親の同意が必須。親が同意しない仕事はダメ』
『成績かぁ。どのくらいの水準キープが条件?』
『コラコラ。それは優等生が言える台詞。菜緒の場合は、成績アップが先でしょ』
『チッ…』
軽く舌打ちをする菜緒。そこからは、あーでもない、こーでもない、と続き、継続検討案件となる。
思い起こせば、幹夫が初めてアルバイトをしたのは中学2年生の時。友人のお母さんのツテで、雪印(当時)でクリスマス用のアイスケーキの棚卸し作業を、友達5人で二日間やった記憶がある。何かにつけて、コンプライアンス、リスク管理が叫ばれる令和の現在。中学生にバイトさせる企業など絶対ないだろうが、そこは古き良き昭和の時代。寒い、寒い、と言いながら二日間のミッションコンプリート。一万円弱のアルバイト代を貰って、超浮かれていた記憶が…
翻って、本日の日銀政策決定会合。金融緩和策維持、ということでドル円、日経先物ともに急騰。海外勢の目論見は崩れ、同時に幹夫の期待も打ち砕かれる。下落で利益を上げようと目論んでいた2月限は、プラ転出来ればオンの字という苦境に陥っている。
まぁ、まだまだ、もう一山、ふた山あるだろう、と読む幹夫だが、相場は如何に。